昔々、そう昭和の初めごろ、ある所にひとりの女の子が住んでいました。
その子はある日、お母さんと一緒に買い物に行く途中、路上で急にお母さんに
叱られたのです。何が何だか解らなくてお母さんを見つめました。
「返事をしなさい!」と遠くの方で聞こえたようでしたが、ハッキリ解りません。
お母さんは、「玉子を買ってきて。」と言ったそうですが、聞こえなかったのです。
10歳になったばかりのその女の子は、その日から急に耳が聞こえなくなりました。
そして、このお話は、その女の子が聴覚を無くす何年か前に出会った、不思議な
出来事から始まる物語です。
女の子はある日、小さな池の畔を歩いていました。ウシガエルとか食用ガエルと
呼ばれる比較的大きなカエルの鳴き声が聞こえてきました。いつものことです。
でも、何気なく目をやったところに釘付けになってしまったのです。
女の子はヘビが大の苦手でしたが、その目の先には小さなヘビが居ました。
目を背けたいのに、自由が利かなくなってしまったように、見つめていました。
ヘビの前には大きめのカエルが一匹、じっとしていたのです。
ヘビに睨まれたカエル・・・怖いもの見たさなのか、何かの力なのか動けません。
すると、次の瞬間、女の子は目を見張りました。
カエルが・・・カエルがヘビを一瞬にしてパクリと飲み込んでしまったのです。
女の子は恐怖と驚きで急いで家に帰りましたが、誰にも話せずに居ました。
月日は流れ、20年近く経ってその子は結婚しました。ひとり目の子どもは
残念なことに流産し、カズミと名付けて供養していました。
それから24歳の時に男の子を出産しました。そして26歳の8月の台風の日に
大きな男の子を出産したのです。長男は可愛くてとても頭のいい子でした。
次男はりりしくて男前になりそうだけど、愛想はあまりいいほうではありません。
長男は3歳になった夏、伝染病であっという間に亡くなってしまいました。
伝染病なのですぐに火葬しなくてはならず、長距離トラックの運転手だった父は
その遺体にも会えず、半狂乱で妻を責めました。母の妹の子どもも同じ病気に
かかったのですが対処が早く一命を取り留めたのです。
でも、叔母であるその母の妹は長男を自分の息子のように
可愛がっていたこともあって、死に目に会えなかったショックと
助けられなかった悔しさから、可愛げのない次男に
「お前が代わりに死ねばよかったのに・・・。」と辛く当たったのでした。
しかし、次男が2歳4ヶ月の頃、三番目の男の子が生まれました。
また二人の男の子の母になった女の子は、貧しいながらも子どもたちと
飲んだくれだけど飲まない時はとても気のいい夫と、
喧嘩しながらも明るい家庭を築きました。
そしてまた、20年が過ぎ、次男が24歳の時、21歳の女子大生と知り合い
恋におち、26歳で結婚しました。人も羨むような仲良しの夫婦で、二人の
男の子とひとりの女の子に恵まれ、とても幸せに暮らしていました。
前厄の年に実の父親を亡くし、厄年には借金で首が回らなくなり、後厄で
妻の父親が他界しました。借金は妻の母の世話になり整理できましたが
ケジメのために単身赴任で寒い地方へ出向しました。
男はその頃、自分達夫婦は倦怠期だと思っていました。妻に頭が上らない
自分は必要とされていない・・・などと考える時もあったようです。
ひねくれた心の男は、全てにおいてネガティブに考えるようになっていました。
色々なことが重なり、男は初めて浮気をしました。言い寄ってきた年上の女。
車を使い色々なところへ行き、食事やホテルやその他の費用は全て女が・・・。
ストレスを発散させる為だったのかもしれません。発覚した時、妻に言いました。
「裏切ってなんかいない。浮気なんかしてない。」と。
男は相手に気が無いから、気晴らしだから、許されると思っていたのでしょう。
妻はショックで壊れました。男が利用していたネットの世界へ初めて入りました。
何故男は浮気するのか・・・それを知ろうと、いろいろな男性とメールしました。
だんだん理解し、男を許すことができました。しかし、妻は、バーチャルな世界で
自由奔放な女を演じ、実際にオフ会に出かけたり、食事やカラオケなど
知らない男性と会うことも平気になりました。そして、男にヤキモチを妬かせ
もっと愛して欲しいと浮気しているフリをしました。隠し事はしないと言って
色々相談しました。「もし、二人で会って誘われたら、どうしよう?」と聞くと
「もう子供たちも大きくなったんだから、人生経験と思って行けばいいよ。」
「ホテルでもいいの?」 「イヤじゃなければ、いいんじゃないかな。」
妻は何人かに誘われて、付き合ったことにしました。誘われたのは
本当でしたが、とてもそんな気にはなれなかったのです。
妻は男のことが大好きだったから・・・。
男は物分りがいいと見せかけて、またネガティブになって行きました。
自分は必要ない人間だと、悲観して暮らしていたのです。
そんな時、ある女と出会いました。女は出会った瞬間に「付き合いたい」と
思ったのです。そして、何度か偶然が重なり、男はその女と浮気をしました。
運命の人だと思ったのか、「出会ってしまった。」などと言い訳したのです。
その女の名前はカズミ・・・男の一番上の姉か兄に付けられた名前と同じです。
その女は男の母親に言いました。「私が代わりに娘になってあげるからね。」
母親は自分可愛さに、男の妻を裏切っていました。良心の呵責からかドンドン
目に見えて痩せていきましたが、温泉に連れて行ってもらったりもして・・・。
付き合い始めて2年半、男は隠すこともしなくなり、堂々と女に会っていました。
その頃の男の頭はまるで宇宙人。まともなことは何一つ言ってはいませんでした。
悪いことは続くはずも無く、やがて男はその女と別れる事になりました。
連絡を取らなくなって2週間ほど過ぎたある日、男は妻に質問されました。
「ねぇ、カズミさんって可愛かった?どんなところが好きだったの?」と。
男は考えました。外見を可愛いなんて思ったこともないな・・・性格か・・・
いや、今となってはそれも怪しい。どこが良かったんだろうか?
「誰かに似てる?芸能人とか動物とか・・・」
う~ん、いくら考えてもこれしか思いつかない。男は妻にいいました。
「俺な、アイツに言ったことがある。アンタ、どこから見てもカエルに似てるなって。」
「へぇ~、それで?」
「『なんやの?それ!』って怒ってたけど・・・」
「あなた、巳年でヘビだから、カエルを飲み込もうとしてたのかな?」(笑)
「あっ・・・」と言って、男は絶句しました。そして、小さい頃から何度となく聞かされた
母の思い出話を妻に話し出したのでした。妻は驚き、鳥肌が立ちました。
「それって、数十年後に起こることの『知らせ』だったのかも?」
「また、そのカエルがあの女に取り憑いてヘビのあなたを飲み込もうと・・・」
「あぁ、すっかり忘れてた。危ないところやったんかなぁ。」
「そう思って感謝しましょう。危機一髪のところで助かったんだってね。」
本当のところは定かではありませんが、女と別れてからの男はまるで
憑き物が落ちたように、以前の男に戻っているのです。
ちなみに、男は妻のことをずっと『観音様』に似ていると言っておりました。
恐ろしいカエルの霊から男を救ったのは、観音様のお陰だったのでしょうか。
お し ま い
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